Yuga LabsのCEOであるアレグレ・ダニエル氏と、経済産業省 大臣官房 Web3.0政策推進室 課長補佐の板垣和夏氏が対談するという異色のセッションが東京国際フォーラムで開催されたWebXの初日に行われました。
アレグレ氏はグーグルに長年務め、一時は世界最大のゲームパブリッシャーで、マイクロソフトによる買収が進んでいるアクティビジョン・ブリザードの社長兼最高執行責任者を務めた事もあるという大物ですが、今年からブルーチップNFTの一つBored Ape Yacht Club(BAYC)をプロデュースするYuga LabsのCEOに就任しました。
板垣氏はヘルスケア産業政策、ソーシャルイノベーション関連政策、シンガポールのVCでの勤務、行政DX等に関する政策などに従事したのち、2017年に経産省に入省し、現在は国家戦略と位置づけられているWeb3に関する政策立案に携わっています。

みんなで作っていく新しいIPの形
アレグレ氏はYuga Labsに加わった経緯について、アクティビジョン・ブリザードではゲームの進化の中でコミュニティがいかに重要かを学んできたと振り返ります。「プレイヤーは自分のアイデンティティをゲームのプラットフォームの中で築くようになりました。一方で、それは『他のゲームに移りづらい』という現象も引き起こしました。これがWeb3では解決できます」
「加えて、インフルエンサーの重要性もゲーム経済では増しています。Yuga Labsは最強のWeb3のコミュニティを作っていくというのを使命にしていて、NFTのホルダーにもっと色々な体験を届けようとしています。そこにはゲームも含まれます。それでYuga Labsに加わる事にしたんです」とアレグレ氏は述べました。
BAYCのユニークな点は、その保有者が完全な利用権(商業利用も含む)を持つという点です。BAYCのNFTを持つコミュニティが、どんどん新しいビジネスを生み出す事を推奨しているのです。これは今までのIPのあり方とは大きく異なります。
「以前のIPは規制され、統制された環境のみで利用されることで価値を保ってきました。でも私達のコミュニティは違います。完全な権利を付与しているので、オーナーがBAYCを使ってレストランをオープンする、ゲームを開発する、Tシャツを作って売る、こうした事は全てコミュニティによって支援されます。しかも国際的なコミュニティなので、世界的なネットワークを利用できます。それぞれのメンバーの強みを活かして、IPが更に飛躍する事を狙っているのです」(アレグレ氏)

Web3の世界で日本はどうなっていくか?
アレグレ氏は「原宿を歩いているだけで日本のブランドの強さを感じました。今は政策的にもWeb3が加速するとてもスペシャルな環境にあると感じます」と述べる一方、日本から世界に出ていく弱さがあると指摘して、それを解決するためにブロックチェーンは活用できるのではないかと話しました。
「私のアジアでの勤務経験で、日本が持つ革新的なコンセプトと、新しい技術を生み出そうという姿勢にいつも感心させられてきました。一方で一番の課題は日本で成功したものを世界に送り出していく弱さです。BAYCはアメリカで始めて、すぐに世界でも一般的になりました。アメリカでの人気と世界での人気が一致しています。CEOとしてクリエイターの支援を考えている中で、ブロックチェーンは世界レベルでやるためのとても良い方法ではないかと思うようになりました」
板垣氏もWeb3の可能性はクリエイターエコノミーにあると述べ、特に日本はIPも沢山あり、ゲームも発展していて、Web3に対してもポジティブな姿勢を取る人が多いと指摘します。また政府として、Web3のビジネス環境の整備に務めていて、海外のタレントや有識者、エンジニアが日本に来てくれるような日本にしていきたいと語りました。
「個人的にはWeb3の可能性をクリエイターエコノミー、あるいは個人のエンパワーメントという観点で捉えています。例えば映画を作る事を夢見ている人。現実的には映画作りはビジネスとしては困難です。でも、映画を作るDAOを作り、トークンを発行し、貢献に応じてインセンティブを渡すような手段を組み合わせれば、映画作りにも取り組めるかもしれません」(板垣氏)

NFTの未来
BAYCのような代表的なNFTであってもその価格はピークから比べると1/10などになっています。この先、どのような未来があるのでしょうか?
「長期的な視点で考えています。NFTは中核にあるので大事ですが、コミュニティの繋がりを密にして、クリエイターのアイデアを広げていくという点に意味があります。Hypeではないか、高額なJpegの話ではないか、という風に取られる事もありますが、NFTを所有する、そこから生まれるコミュニティを体験していない人のセリフだと思います」
「1993年のインターネットはモデムで通信会社と繋いでやっていました。そこからAOLが誕生して、簡単に誰でもインターネットを楽しむようになりました。Web3はまだAOL以前です。課題はもっと簡単にインタラクションして、オンボーディングできるようにするかです。まだWeb3は表面を擦った程度しか真価を発揮していません。これからが楽しみです」