世界第二位の仮想通貨取引所と巨大なファンドを運用していたFTXが崩壊したのは、2022年のクリプト業界で最大のニュースでした。顧客からの預かり資産は160億ドルとも言われますが、未だに返金されていません。これも引き金になりクリプトウィンター(仮想通貨の冬)と呼ばれるような状態が今まで継続しています。
一方、FTXの日本法人として運営されていたFTXジャパンはその崩壊の影響を受けて閉鎖されたものの、顧客資産は保全され、今年の2月に返金が行われました。なぜ日本だけ無事だったのか、その舞台裏で何があったのか、FTXジャパン最高執行責任者のセス・メラメド氏がWebXに登壇しました。
セス氏はゴールドマン・サックスに勤務していた2015年にビットコインに出会い興味を持ったところ、知り合いが日本で経営していたQuoine Corporationに2017年に加わりました。同社は仮想通貨取引所を経営していて、後にLiquidとリブランディングしましたが、2022年にFTXに買収され、FTXジャパンとなりました。その半年後にFTXの崩壊劇に立ち会う事になります。
「(FTXが破産申請した)11月12日のニュースは衝撃的でした。同時に私達は顧客資産を預かる身として、それを保護するという責務がある事を強く認識していました。すぐに資産を顧客に返還するための方策の検討を始めました。最終的に私達は廃止されていたLiquidのプラットフォームを再起動し、そこにFTXジャパンから資産をブリッジして、そこから返金するという手段を取りました」
セス氏によれば、FTXジャパンが買収によって成立した会社で、以前に利用していたプラットフォームが残っていたことが幸運だったようです。無論、資産移動にはハッキングなどのリスクがあり、外部監査も入れ、かなり広範なセキュリティチェックを行いながらの作業だったそうです。
「破産の発表でチームの半分が会社を去ってしまったので、非常に小さいチームで取り組む事になったのは大変でした。また、データへのアクセスも不十分で、直接アクセスできないデータベースに多くの事が保存されていました。でも米国や世界中のチームと協力して何とかデータへのアクセスを確保し、一連の移行用のプログラムを整備して、テストを繰り返して、何とか101日後の2月21日に引き出しを再開できたのは嬉しい出来事でした」
一方で、返金が実施できたのは日本だけであり、その点は、日本の法整備が役に立ったようです。
「日本の暗号資産交換業のライセンスに言及する必要があるでしょう。このライセンスでは顧客資産の分離管理が特に厳重に定められていて、全ての顧客資産はコールドウォレットに保管して、毎日その数量を記録して報告する必要があります。コンプライアンスや内部監査などの手続きも厳密に定められています」(FTXでは顧客資産を自社の投資へ流用していて大きな残高不足があったと報告されている)
日本の規制環境について尋ねられたセス氏は次のように回答しています。
「日本の規制当局は、市場参加者の保護と、イノベーションの促進で、良いバランスを取っていると感じます。他の地域では明確な指針がなく野放しにされていることもありますが、日本では非常に明確なガイドラインがあります。一方でエコシステムはまだ改善すべき点があります。ステーブルコインの開発では遅れを取っています。世界における円の重要性を考えると円にペッグしたステーブルコインは必要です。また、起業家の活躍を促進するために出来ることはまだまだあります」
また、事業の再開にも意欲を示しました。
「私達は日本での事業再開を計画しています。もちろん、どのようにするかは慎重にしなくてはなりません。2022年とそれ以前に業界に起きた事を認識しています。最も大事なのは透明性と安全性をどう改善するかです。最初に投資しているのはソルベンシーの証明(顧客資産=負債以上に準備金を持っている事を証明する)です。これを第三者が監査できる状態で公開することは必要でしょう。これは私達が実現したいイノベーションの一つです」
さらにセス氏はFTXで好評を得ていた無制限先物やクロスプロダクトマージン、サブアカウント、精算のマージンなどを引き継いだ製品を今年後半に復活させたいと述べました。
FTXジャパンがどのように復活するのは非常に気になるところです。