【IVS2023京都】 Music NFT プラットフォーム「OurSong」が提唱する音楽アーティストの民主化とは

OurSongは誰もが登録してMusic NFTを作成したうえでコミュニティと共有できるサービスです。

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当日配布されたワッペン。ノートPCに添付するうえで最適
  • 当日配布されたワッペン。ノートPCに添付するうえで最適
  • Chirs Lin氏。NFTMusicポータル「OurSong」の仕掛人
  • グラミー賞受賞者KIMBRAもOurSongに参戦!
  • Jeff Miyaharaプロデューサー。音楽業界のカリスマ
  • Our Songのホームページ
  • モデレータの田中氏。サイドイベントでもこれだけのVIPを入れる気合の入れよう!

6月28日~30日の3日間、京都市勧業館「みやこめっせ」(以下、みやこめっせ)とロームシアター京都を中心に開催されたIVS 2023 KYOTO/ IVS 2023/IVS Crypto 2023 KYOTO。実は100以上準備されたサイドイベントも本会場並みに盛り上がっていたというのは既報のとおり。さらに、パーティ会場のようなカジュアルな場所でも非常に重要なパネルや講演会が行われていました。29日、BROOKLYN NIGHT BAZAARで開催された「OurSong Fireside Chat」がそんなイベントのひとつです。

OurSongは誰もが登録してMusic NFTを作成したうえでコミュニティと共有できるサービス。本イベントでは、OurSong共同創業者Chris Lin氏、Animoca Brands Japan CEO- Daisuke Iwase氏、日本や世界で活躍する音楽プロデューサーのJeff Miyahara氏、さらにグラミー賞受賞アーティスト KIMBRA氏が登壇。Headline Asiaの田中章雄氏によるモデレートのもと、パネルディスカッションがおこなわれました。

まず、冒頭、田中氏の提案により、OurSong上からKIMBRAによる『The Way We Were』のオリジナル版に続いてリミックス版が披露され、OurSongのサービスが一体如何なるものであるかが示されました。これらの楽曲が披露された後、Chris氏がOurSongのサービスについて次のように解説しました。

「KIMBRAによるこの曲がオープンライセンスとしてアップロードされます。すると、OurSongに登録している皆さんひとりひとりがKIMBRAに電話をする必要も、英語で話す必要も、マネージャーと交渉する必要もなく同曲をリミックス出来ます。NFT技術を活用しているのでリミックスされた作品がマネタイズされたら、そのロイヤリティがKIMBRA側にも入る仕組みです」。

実際、今回はKIMBRAによる『The Way We Were』のリミックスライセンスをOurSong登録者にはフリーとし、「OurSong x Kimbra: The Way We Were Remix Challenge」というコンテストが開催されました。コンテストは5月15日から6月12日の期間で開催され、審査委員長はもちろんKIMBRA本人です。KIMBRAは 募集作品の選定状況について、次のように答えています。

「提出された作品数に驚かされました。本当に名誉なことですね。皆さんが時間をかけて曲を聴き、それをさまざまなスタイルやアプローチで再解釈してくれたことに感謝しています。様々なジャンルの作品があって受賞作品を選ぶのにはとても苦労しましたが、本当に楽しい時間でした。最終的には、私にとって感情的なインパクトが最も大きかった作品を選びました。それは私にとってとても大切。元の曲には自分自身の感情をたくさん込めています。なので、今回は私が熟知しているものに新しい視点を示せるもの、または、これまで聞き逃していた歌詞の側面を提示してくれるアーティストを選んでいます。」

優勝者には3000USドルが賞金として贈られるのに加え、『The Way We Were』の公式リミックス作品としてのグローバル配信、OurSongによる公式SNSなど各種サービスでの発表、そしてKIMBRA本人とリモートで会える権利などが提供されました。コンテストの結果、台湾在住のアーティストHogan とFlowstrongが選ばれました。これについてChirs氏はこうコメントしています。

「従来の方法で、これらのアーティストがKIMBRAとともに仕事をすることを想像してみてください。社会的、言語的、法的障害が存在し、それらを全てクリアしないと実現出来ません。それを私たちがシンプルにしたのです。これで世界中の人がオープンライセンスのもとに自分のリミックスをSpotifyに展開し、収益を得たとしてもその収益の一部はKIMBRAに戻るのです。」

なお、OurSongも近い将来、独自の音楽配信サービスを立ち上げる予定とのこと。それでも他の音楽配信アプリへの展開を認めるのは、OurSongとしてのビジョン「アーティストを育てる」を達成することを最優先したからといいます。

「これは僕らにとっての音楽業界のリイマジネーションなのです。Web3が音楽業界における従来の課題を突破し、すべての人に還元されるのです。」(Chirs氏)。

また、かつてメジャーレーベルに所属していた立場から、KIMBRAはこのサービスに対する心境について次のように語っています。

「最近独立した立場としてまだ学んでいる最中ですが、私はメジャーレーベルに10年間所属し6枚のアルバムをプロデュースするという契約を結んでいました。条件があわずにインディーズになりましたが、それにより、以前の私では持ち得なかったチャンスに恵まれています。皆さんが言われているように、世界はかなり分断されてしまっている状況ですが、私たちはみんなで共同作業をするやりかたに戻るよう、その道筋を探しています。。それは、エンジニアや投資家を理解しつつ、アーティストが自分たちのためになることを喜んで理解し、共同作業に参加する力を意味します。私にとってのキーワードは一貫性のある収入源を作ること、そしてフェアなものにすることです。」

ここでモデレータの田中氏に今回リミックスされた多数の作品を目の当たりにしたときの心境を聞かれKIMBRAは次のように答えました。

「本当にすごいです。これまでは自分がリミクサーを選び、リミックスをしてもらうというプロセスで、レーベル側もアイデアをピッチし、その結果から2つのテイクの中からひとつを選ぶ、かなりビジネス的かつ恣意的な方法でした。しかし、今回のプロジェクトでは、世界中の様々なアーティストによるリミックス作品が寄せられ、ただビッグネームではないという理由で選ばれなかった作品によって、新たなクリエイティブな可能性が開かれました。私が選んだリミックス作品も、これまでほとんど知られていなかったプロデュースチームによるものでしたが、本当にインスピレーションを受けました。従来なら今回のように台湾のアーティストを選ぶにしても先に台湾の音楽に触れる機会が必要だったことでしょう。」

また、日本や世界の音楽シーンで活躍中のヒットプロデューサー、Jeff Miyahara氏にこのようなWeb3シーンについてプロデューサーとしてどう見ているか、田中氏が質問を投げかけます。これに対し、Jeff氏は次のように答えました。

「本当にいい質問だね。インディー・アーティストに力が戻ってくるのは、これからだと思うよ。たしかに、特につぎの3つの側面でメジャーレーベルによるアーティストへの貢献はすごい。

その1: 資金提供。メジャーレーベルはアルバム制作の資金を提供してくれる。

その2:ネットワーク。ほとんどのアーティストは、デビュー前、振付師やミュージック

ビデオの制作者、あるいはテレビ番組出演のための術を提供する人たちを知らない。

その3:スタッフやロジスティクス。アーティストは手紙をこまめに書きたくないし、法的な書類を熟読してサインするなどしたくないだろう。

つまり、アーティストの後方で軍隊のように明確な役割をもったプロたちがアーティストの活動を支えるという体制があるんだ。これらを考えると、メジャーレーベルからWeb3音楽に参入するのは2種類のアーティストになる。一つ目は超ビックネームのアーティストで関係者が「No」と言えないひとたち、もう一方は、メジャーレーベルと契約は結んだものの、レーベル側の期待値が低いアーティストの場合。この場合、すぐに収益源になることはなくとも、新たな視聴者層が生まれるサービスにも発信していこうという判断になる。ただ、ビルボードにラインクインするレベルのアーティストにとっては(レーベル側に)、必要なものはすべてそろっているということになると思う。やはり、一番はチャンスがあるのは現在活躍中のインディーズアーティストや次世代アーティストだよ。」

第一線で活躍している音楽プロデューサーとしてWeb3に対する率直な見解が述べられたところで、OurSongとしてのこれからの展望として2023年がHipHop誕生50周年であることから同社に属するHip HopプロデューサーTerryがサプライズ登壇。HipHop50というコンテストが開催されるということがから明かされました。

このように、OurSongのサービス提供社、アーティスト、そして音楽プロデューサーという複数の視点からWeb3音楽の可能性が話し合われた「OurSong Fireside Chat」。それぞれが音楽産業に対する愛情とパッションを持ち、これらのビジネスを広く多くのアーティストへと広げていこうという思いが感じられるイベントとなりました。OurSongの動向については今後も追っていきたいと感じています。

《中村彰憲》

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