IVS CRYPTO 2023 KYOTOが京都市勧業館「みやこめっせ」(以下、みやこめっせ)とロームシアター京都で開催されました。1万人以上を動員し、Web3、スタートアップ系イベントとしては日本のみならずアジアでも類を見ない規模だったのですが、実は、Web3ゲーム業界にとって意義のあるサイドイベントも開催されていました。


Web3ゲームにおけるNFTの取引量においてトップを走る『Axie Infinity』のコミュニティイベント『AxieLabs』が6月29日、京都河原町のTHE VR ROOM KYOTOで開催され、IVS 2023にあわせて来日していたCo-Founder 兼 Chief Growth OfficerのJeff Jiho Zirlin氏(以下、Jihoさん)が講演しました。
講演の内容は、Web3ゲームのみにフォーカスしたカンファレンスであれば基調講演となっていてもおかしくない内容。そこで、本稿は講演で語られた、『Axie Infinity』創成秘話とこれからの展望についてフィーチャーします。
Jihoさんは、もともとゲーム開発に憧れを抱いていましたが、これまでのゲームビジネスは大手競合がひしめき合っており、自身が成功する余地がないと感じていたそうです。
そんな中で出会ったのが育成型のNFTゲーム『CryptoKitties』でした。Jihoさんはさっそくプレイを進め、早々にトップブリーダーになり、さらにこれまでにないギルドも組織しました。ここでようやく、将来性は実感していたものの「面白さ」を感じられなかった「ブロックチェーン」技術が「NFTコレクション」として発展したことで新たな可能性を見出せるようになったのです。
しかし、小さい頃から『Diablo』や『Star Craft』、『スーパードンキーコング』などのゲームをプレイして育ったJihoさんは、さらに面白いゲームを求めるようになりました。また、父親が趣味で昆虫採集をしており、それに同行しながら珍しい蝶を発見することができなかった経験も、大きな喜びの思い出として蘇ってきました。
そこで自分たちゲーマーにとってもかつてゲーマーだった大人にとってもワクワク出来るWeb3ゲームがつくれないかと考えたのです。
NFTコレクション総取引金額40億ドル強でギネスに登録された背景に盛り込んだ幼少時代のワクワク感
このようなビジョンのもと、Jihoさんは次の3つのクエスチョンを意識しながらWeb3ゲームの開発を進めました。
世界中の人たちが思わずWeb3に参加したくなるようなゲームを作ったら世界はどうなるだろう
暗号通貨にノスタルジーを感じさせつつ、教育的で没入感を感じさせることができるしくみを導入したらどうなるだろう?
Web3が、ゲーム体験に提供できる独自のゲームメカニクスは何だろうか?つまり、Web3要素を加えることでこれまでのゲームが提供したエンターテイメント性を何倍も面白くするものとはいったいなんだろう?
このクエスチョンを追求しながら、仲間とともにコンセプトを深めていきました。キャラクターデザインをはじめとしたコンセプトアートは開発当時からMasamuneが担当しさまざまなアイデアを広げていたのです。当時、今のような成功を収めることは想像していなかったが、夢は無限に広がっていたとJihoさんは語ります。
「この頃はDiscordに集まった20~30人ほどのチームで、僕はそのコミュニティの1メンバーだったんだ。このグラフィックを見ながらその可能性について思い巡らせていたのさ。いまは巨大な組織になってその体系も複雑となり、世界中でセンセーションを巻き起こしてはいるけど、自分にとって、この原初的なビジョンはいまでも本当に大切だと感じているよ。」(Jihoさん)
このようなビジョンに思いめぐらせ、高揚感にひたりつつ実感したのは「子供の時に感じたゲームの楽しさにふれられるような感覚を組み込めばWeb3に対する恐怖感もなくなり、使い方も難しいと感じることがなくなるのでないか」ということ。これを意識しながら、2018年初頭にソフトローンチしたのが『Axie Infinity』です。
同作は現時点においてNFT総取引量が42億4000万ドルで、29億ドルで2位となっているBored Ape Yacht Club、3位のCrypto Punks、4位のMutant Ape Yacht Clubそして5位のArt Blocksなどを大きく引き離してトップとなっています(いずれもCrypto Slamのデータによるもの)。『AXIE INFINITY』はもともとプレイキャラクターであるAxieやアイテムの取引を開始した2020年11月から高い取引量で推移してきましたが、一時はNBA Top Shotなどにトップを奪われていたことも。それでも1位に再起した背景にあるのは「ゲームの力」であったとJihoさんは結論づけています。

SKY MAVISとしては「Axie Infinity」ユニバースの拡張も進めています。2022年4月7日には『Axie Infinity Origin』を、同年12月28日には農場シミュレーション系の『Axie Infinity Homeland』をローンチしています。さらにサードパーティにより開発されたミニパズルゲーム『Axie Infinity: Raylights』が2022年の11月11日にリリースされました。また『Axie Infinity』のコミュニティに所属していたゲームチーム、Tiolandからタワーディフェンス系ゲーム『Defenders of Lunacian Land』が2022年12月17日からオープンβとして展開されています。


Roninネットワークはサードパーティやクリエイターにその努力が還元されるエコシステム構築をねらう
これらのWeb3ゲームを支えるのは、SKY MAVISが展開する独自のブロックチェーンネットワーク「Roninネットワーク」です。RONというネイティブトークンと独自のウォレットを使用することで、Axie Infinityのアイテムやトークンをウォレット内に保管することができます。Roninという名前は、日本語の「浪人」に由来しており、優れた技能を持つ武士がどの主君にも属さずに活躍する状況を理念として名付けられました。
実際に「Roninネットワーク」を導入し、Jihoさんは「軽さ」を評価しています。従来のネットワークだとその「重さ」が足かせになっていると感じていた中で、「Roninネットワーク」に切り替えてからの動きの早さを実感したとJihoさん。このような流れでサードパーティに対してもRoninネットワークの導入を以来することとなり、『The Machines Arena』や『Tribesters』をはじめ、現在5タイトルがRoninネットワークを活用してWeb3ゲームを展開することが予定されています。
「これでWeb3に関するすべての要素が垂直統合されたRoninネットワークのエコシステムが生まれる。このネットワークには、Web3ゲームの成長と拡張に必要なツールがすべて揃っている。僕たちファーストパーティのIPに加え、サードパーティのIPが参画することで異なるタイプのユーザーをRoninネットワークに参加させることが出来る。」(Jihoさん)
Roninネットワークの使用者構成ですが、現在は東南アジアと南アメリカで占められているとのこと。そのうちの25%はフィリピン、次いでインドネシア、ベネズエラ、ベトナム、アルゼンチンです。この傾向からJihoさんは若いゲーマーが多く、新しいモノを貪欲に受け入れやすい地域かつ、銀行利用率が低く、インフレ率が高い暗号資産のメリットが明確な地域のほうが受け入れられやすいと分析しています。

このように、サードパーティがRoninネットワークでのゲーム展開を希望する背景には、同ネットワークのアクティブユーザー数が多いことがあげられます。
「Roninネットワークにはリアルな人たち、リアルな活動、リアルなWeb3ゲーマーがいます。私たちの推測ではWeb3ゲーマーの60%が「Axie」または「Ronin」コミュニティにいるのです。この大きなユーザーベースを有効に活用し、Web3ゲームに熱心なコミュニティの存在するところで新ゲームリリースするのが重要なんです。これで最初から数千人規模のゲームプレイヤーを集めることが出来るからです。」とJihoさんは自信をもって語りました。
このようにWeb3ゲーム関連活動のすべての機能について統合化を進めていくなか、いよいよ一般ユーザーも参画させようと動き出したのがMavis Marketです。これはRoninネットワーク内で、Axie以外のNFTもトレードできるサービスですが、他のサービスよりも取引手数料を可能な限り安価にすることでクリエイターに還元することを意図しているとのこと。さらにMavis Marketに展開するためには、自分のアドレスが「ホワイトリスト」に事前に掲載される必要があります。これでユーザー同士が安全に取引出来るのです。

最後に、JihoさんはSKY MAVISにとって初めてのサービスとなった『Axie Infinity』立ち上げのこと振り返りました。
現在はWeb3界隈で一大ムーブメントとなっている同作ですが、2018年初頭にローンチをしてから1000人目が登録されるまでに1年近くかかっています。それがいまでは世界最大の取引量を誇り、加えて2500人ものweb3コンテンツクリエイター、TwitchにおけるWeb3ゲーム視聴時間の40%、YoutubeにおけるWeb3ゲーム視聴時間の45%に達する程(同社調べ)のコミュニティにまで成長したとJihoさん氏は感慨深く語りました。
さらにJihoさんは最初にオフイベントを開いたのが実は2018年の東京だったと明かし、その最初期の状況に想いを馳せつつ「Axieバトラー、同作のeスポーツプレイヤー、ブリーダー、コレクターに関わらず、みんなで一緒にこれからの物語の続きを書いていきましょう!」と参加者にエールを送って講演を締めくくりました。
終始なごやかな雰囲気でおこなわれた、SKY MAVISのオフ会ですが、最後に語られたのはこれからのSKY MAVISやRoninネットワークの可能性を示唆するビジョン。暖かいコミュニティの支援のもと同社のコンテンツやネットワークがここ日本でどう成長していくかこれからも見守っていきたいと思います。