Arbitrum(アービトラム)は昨年メインネットがローンチし、今年3月にはネイティブトークンの$ARBがリリースされた、イーサリアムのL2チェーンの一つです。Arbitrumを開発するOffchain LabsのパートナーシップマネージャーであるNina Rong氏がIVS2023に登壇しました。
Offchain Labsは2018年の創業。共同創業者でチーフサイエンティストのEd Felten氏はプリンストン大学でコンピューターサイエンスを教えた後にホワイトハウスの副CTOと大統領のアドバイザーを務めた経験もあります。CEOやCTOもプリンストン大学で学んだ経験があるという繋がりがあります。
Arbitrumはイーサリアムのスケーリング問題を解決するソリューションです。膨大なトランザクションが発生しているイーサリアムのチェーンではしばしばガス代(手数料)が高騰するという問題があります。高額な金融取引であればガス代は無視できるレベルですが、ゲームのような少額のトランザクションが大量に発生する用途では、1回数十ドルのガス代は致命的です。
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こうした問題を解決すべく登場したArbitrumは2つのチェーンで構成されています。「Arbitrum One」は汎用的に使えるチェーンで、Optimistic Rollupという手法でイーサリアムと接続されています。こちらはイーサリアムと比べて1/10から1/50程度のガス代で利用できます。一方の「Arbitrum Nova」はゲームなどを想定したチェーンで、イーサリアムと比べて1/30~1/150程度のガス代で済むという仕組みを構築しています。こちらはAnyTrustという手法でイーサリアムと接続します。
Optimistic RollupもAnyTrustもデータ処理を行った後に、L1であるイーサリアムにデータを書き込むのは共通ですが、AnyTrustはData Availability Committeeという組織がデータの可用性を判断(署名)するために高速化が実現できます。この組織はConsenSys、Google、OpenSea、QuickNode、Redditなど信頼性が担保できるであろう団体で構成されています。
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「Arbitrum Nova」の圧倒的な低コストと高速性は、膨大なトランザクションを必要とするゲーム等の領域では非常に効果的なものになると考えられます。
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一例として海外の掲示板として膨大なユーザーが存在するRedditのWeb3進出に当たってのパートナーに「Arbitrum Nova」は選ばれています。アプリ内にウォレットが生成され、ポイントがチェーン上に移管されました。この際に25万のRedditアカウントがオンチェーンに移されましたが、コストは僅か1700ドルしかかからなかったそうです。
他方、利用は「Arbitrum One」が圧倒的で、イーサリアムのL2チェーンの中でも圧倒的なTVL(チェーンにロックされた資金額)を誇ります。ブリッジされた$ETHの量も群を抜いています。
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ゲームも盛んになっているようで、講演では「THE BEACON」というインドのゲームが紹介されました。2週間で4.5万のNFTが45ドルでMint(生成)され、2.6万のユニークウォレットが参加しているそうです。
Nina氏は今後の展開についても話しました。「Arbitrum Orbit」はArbitrumの基盤の上にL3チェーンを展開するためのソリューションです。Arbitrumの信頼性ある基盤を活用して独自のチェーンを展開したいゲーム会社もあるかもしれません。
「日本のプロジェクトと一緒に取り組む事を楽しみにしています。技術的なサポートもできますので、ぜひ連絡してください」とNina氏は語って講演を締めくくりました。